再開発は「仕方ない」ことなの?
「防災上仕方ないよ」「便利になるんだからいいじゃない」「今やらなきゃ立石だけ時代に取り残される」...
こんな言葉で再開発を容認する声をよく聞きます。
事実、葛飾区や準備組合は、こうしたことを再開発の大義名分として掲げています。
でも、これらの一見もっともな理由には、多分に思い込みがあるのです。
今からそれを見ていきます。
ただその前に、忘れてはならない、この問題の本質を書いておきます。
それは、数十年、数百年に渡る人々の暮らしの記憶が刻み込まれ、それが文化となって今なお多くの人々の心を捉えている立石という街を、
例え現状に課題があったとしても、いかに壊さずに済むようにするか、いかに守り維持していくかに知恵とお金とを使うのが、行政の務めだ、ということです。
そして、街並みを壊し、文化を壊し、歴史を断ちきり、住民の大半を追い出して、どこの駅前ともつかない巨大ビル群を建てる再開発を、私たちは『街づくり』などと決して呼びたくはありません。
●『防災』は錦の御旗にならない!
立石駅周辺は狭い路地が多く、古い木造家屋も密集しており、防災上の課題があることは間違いありません。
しかし、そのことと再開発の必要性とは何の関係もありません。
3つの大事なポイントがあります。
・立石の危険性が過剰宣伝されている。
・そもそもタワーマンションは危険である。
・再開発以外にも防災性向上の手法はある。
区はことあるごとに「立石は危険だ。一刻も早く再開発しなければ」と言います。
しかし一度冷静に見てみましょう。
次の表は、都内各地域の災害時の危険度を、丁目ごとに評価してランキングしたものです。
ランクは5段階で5が最も危険。
北口再開発エリアがある立石4丁目と7丁目、南口東西地区が含まれる立石1丁目を抜き出しました。
立石だけが危険?
こうして見ると、立石1丁目の建物倒壊危険度こそ目を引きますが、全体的な危険度は「極端に高い」とまでは言えません。
そして、総合危険度がこの中で最も高いのは立石4丁目ですが、この立石4丁目より危険な地域が、葛飾区内に12か所もあるのです。
この12地域のうち、5地域は『不燃化特区』に指定されているため、木造住宅の建替えに最大200万円の区の助成金が出ます。それ以外の地域に出る助成金は、最大160万円です。
一方、立石駅北口地区再開発への補助金額(区庁舎部分の購入費は除く)を一軒当たりで割ると、なんと3億円を超えます。
優先順位が間違っていることは明らかです。
区は、再開発支援のための区役所建替え・移転も、『防災のため』だと強弁します。
しかし、実は区内にある小・中学校73校のうち、なんと68校が区役所より古いのです。これらをほったらかして区役所だけ豪華にして、いざ地震や水害が起きたら「区役所まで避難してこい」とでも言うつもりでしょうか?
タワマンが「防災対策」?
そもそも、タワーマンションで防災対策という発想が時代遅れです。
令和元年台風19号での武蔵小杉の被害を見ても明らかなように、タワーマンションはひとたび停電すれば水道もトイレもエレベーターも使えず、陸の孤島と化します。
火災が起きても、一般的に11階より上には消防車のはしごが届かないそうです。災害時に限らず高層階ほど救助も当然遅れます。高さがあだとなるのです。
ソフト面ではどうでしょうか。近ごろ頻発する大災害の被災地で、誰もが口をそろえて言うのは、「想定外の災害時に、頼りになるのは顔の見える地域のつながり」だということです。
タワーマンションはこうした「減災」の考え方に逆行します。
1000億あれば何でもできる
こうしたことからも、立石は部分的な防災対策を施せば十分です。
例えば、空き家を取り壊して延焼を防ぐための空き地をつくる、消火栓や防火水槽を充実させる、といった手法が考えられます。
もう少し大きな規模で考えるなら、3~4軒単位での小規模な再開発、いわゆる「共同建て替え」という方法もあります。
これならば何も安全な建物まで壊す必要はありません。
地区計画を定めて、個別の建替えにあわせて少しづつセットバックしてもらい、道幅を広くすることも考えられます。
最も老朽化している呑んべ横丁や仲見世商店街についても、現在は外見をほとんどいじらずにリノベーションしたり耐震補強する技術が進歩しており、空き家や古民家の再生を手掛けるNPOなども数多くあります。
いずれにしても再開発に1000億円もの税金を投じるぐらいなら、行政が知恵を絞れば他にできることはあるはずです。
しかし現実には、再開発の都市計画決定がかけられている北口地区と南口東地区では、住民が自分の家を建て替えることさえ規制されている始末です。
非現実的な再開発計画に行政がしがみつくことで、街を危険に陥れているのです。
●再開発で便利になる!?
続いて、再開発で「利便性を向上させる」という区の主張を検証しましょう。
まず、区が防災と並ぶ再開発の目玉に掲げる「駅前交通広場」についてです。
実は再開発をしなくても、広場はつくれます。
「再開発で駅前広場」のウソ
上の図の黄色の部分は、現在高架化工事に伴う仮線路の用地として立ち退かされている場所です。
工事が終われば広大な空き地になります。
紫の部分は、新たに生まれる高架下の空間の広さを表しています。
一方青い部分が、再開発で予定されてる交通広場の範囲です。
比べてみれば一目瞭然、高架下と仮線路跡地を上手く使えば、再開発によらずとも駅前交通広場はつくれます。
タワマンで不便になる
さらに指摘したいのは、タワーマンションは便利なのかということです。
今の立石は駅周辺の徒歩で回れる狭い範囲の平面上に、生鮮食品や加工食品店、飲食店、電気屋や日用品店、図書館までもが密集して存在します。自転車を押したまま歩き回って、一日の買い物を済ませられるのです。
タワーマンションになったらどうでしょうか。
上述したようなお店がなくなることはもちろん、近辺に買い物に行こうと思ってもいちいちエレベーターを待たねばなりません。食べ歩きやはしご酒の楽しみもなくなります。
●タワマンはもはや時代遅れ
今、日本の不動産市場は縮小を続けています。マンション不況が来るとも、もう始まっているとも言われます。
都心の再開発はすでにタワマン中心からオフィスビル中心へと方向転換しています。
タワーマンションが抱える様々な問題点も、かなり広く認知されるようになってきました。
そんななか、2019年夏には神戸市が、一部地域に全国初の「タワマン禁止令」を出しました。人口バランスが崩れ学校施設などを逼迫させること、将来スラム化の恐れがあることなどを理由に挙げています。
これらは普遍的な問題であり、今後流れに続く自治体が出てくることは大いに考えられます。
「再開発しなければ街が発展しない」?
「時代に取り残される」?
いいえ、タワーマンションこそが時代遅れなのです。